人魚花


(一人取り残されるくらいなら、真っ先に死んでしまえれば良かった)

何度も何度も、そう思った。

けれど罰とは望む通りには与えられないもので、だからこそ罰なのであって。


──そして海神の与えた罰は、これ以上ないほどに容赦ないものであった。

<彼女>は孤独を与えられ、もう一つ、大切なものを失っていた──『誇り』という、ものを。

<彼女>は、美しい花を咲かせられなくなっていたのだ。

<彼女>の居場所が入り江になってから、初めての開花の季節。

<彼女>は花を咲かせようとして……生まれて初めて、それを失敗した。

どんなに力を込めても、花弁は開かない。本来花が付くべき茎の先端ではなく、蔓の途中や葉の付け根から、くしゃりと歪んだ中途半端な花弁が、所在なさげに存在を示すのみ。

誇りさえも奪われた<彼女>が感じたのは、どうしようもない程の『絶望』で。


──けれど、『絶望』だけを抱えていた<彼女>が、別の、『目的』とも呼べるものを見出だしたのは、さらにもう少しだけ、時が過ぎたある日のことだった。

奥まった地形ゆえに普段は波もなく静かな入り江に、突然大きな海流が──すなわち、『海神の訪れ』が起きるようになった。


(どうして今さら、こんな所へ?)
(私に課した罰の様子を、確かめに来ているの?)
(……だったら、)

──赦しを、乞おう。