そして何よりも変わっていたのは、その“水質”で。
もともと海と近かったせいか、地震によって生じた地面の歪みが、海と湖との間に、小さな通り道をつくってしまったのだ。
──そして、湖の温かい穏やかな水の中で過ごしてきた彼らにとって、海水はあまりにも冷たく、そして含まれる塩分は攻撃的すぎた。
日に日に侵食してくる海水に、<彼女>たちは身を寄せあって恐怖に耐えていた。けれど一度生じた通り道は塞がれることはなく、むしろだんだん大きく広がって、彼らの住み処に海水を送り続けていった。
一番最初にその海水に耐えられなくなったのは、身体の小さい小魚たちだ。弱々しく動いていた尾ひれが、ある朝ついに動かなくなって、水面に浮かんでいて。
それからはあっと言う間だった。湖に住んでいた生き物は皆死んでいき、それは花である<彼女>たちも変わらなかった。
日に日に呼吸が苦しくなっていった。入り込んで増えた水によって花を水面に出せなくなり、日の光が遠くなっていった。葉の先から、黄色く変色していった。
身を寄せあっていた仲間が、一人枯れ、二人枯れ、だんだんその数は少なくなった。
『海の神は私たちを歓迎していないのよ』、誰かがそう言い、<彼女>はその通りだと思った。
それでも希望を捨てたわけではなかった。諦められずに、残った仲間と共に、強く『生きたい』と祈れば、届くと思っていた。『また、皆と唄を歌って暮らしたい』、と。
しかしその祈りは届かなかったようで、枯れていった仲間が蘇ることはないどころか、さらにその数は少くなっていった。
やがて<彼女>は祈ることをやめた。『神様なんて何もしてくれない』と諦めてしまうことで、死への恐怖がやわらぐ気がしたのだ。
そしてやはり仲間の数は減っていって、最後まで残ったのは、<彼女>と、<彼女>にいつも子守唄を歌ってくれていた花だった。
自分の隣で一心不乱に祈りを捧げる姿を見ながら、けれど<彼女>は一緒に祈りを捧げようとはしなかった。


