『認めたようだな』
沈黙を肯定と捉えたのか、それはそれは面白そうに、蛸が言葉を寄越す。
『これ以上ないほど報われない恋をして、自らの命を縮めているお前に良いことを教えてやろう』
にたり、蛸が笑ったのが、岩壁が隔たっているのにも関わらず、すぐそこに見えた気がした。
「……聞きたくないと言ったら?」
『よく言う。本当は聞きたくて仕方が無い癖に。……聞いたことでどんなに苦しんだとしても、お前は知ることを望むだろう?』
「……っ」
蛸の余裕に溢れた物言いに、思わずこちらが詰まってしまう。
図星だった。どうせこちらが拒んでも言うのだろうから、せめてもの抵抗として聞きたくないなどと言ってはみただけだった。
本当は知りたいのだ。そんなことを言われて、気にならない筈がない。
蛸が何を知っているのか、自分が何を知らないのか。
地に縫い止められている<彼女>には、知らないことはあまりにも多すぎるのだから。
『お前にとっていい情報かは分からない。……だが、教えてやろう。お前が毎夜捧げていた海神への供物、あれには地上の人の子の肉よりも格上、まさしく最上級のものがあってな──なんだと思う?』
含みのある言葉。蛸が楽しそうに、あの不気味な足を曲げ伸ばししている姿すら見える気がした。
まさか、と、<彼女>は思う。こんなふうに問われては、察しのいい<彼女>の心に浮かぶ答えは一つしかなかった。
けれど、まさか。そんなはずは。そんな無意味な問答を繰り返して、<彼女>は答えを口にするのを躊躇う。
たっぷり<彼女>が動揺するのに充分な時間をとってから、蛸は口を開いた。
「薄々勘づいているのだろう?正解は──人魚、だ」
そうして告げられた言葉は、予想していたにせよ、やはり、<彼女>に大きな波紋をもたらすもので。
「……どういうこと……!?だって、人魚は海神の御子と呼ばれているんでしょう!?何故……!むしろ海神様はお怒りになるのでは……!?」
『だからだよ』


