人魚花

否定しようとした言葉は、いとも容易く蛸によって遮られた。

『自分の心から逃げるな。本当は気付いているんだろう』

畳み掛けるような言葉は、それだけで、どんな波よりも強く彼女の心を揺さぶる。

目の前に、見えるはずのない碧がちらついた。

(私、私……なんで)

姿を思い浮かべた途端、言いようもないほどの苦しさを覚えて<彼女>は戸惑った。

もう二度と逢えないということが苦しい。騙していたなんて全部嘘だと言って欲しい。また他愛もない話をして欲しい。

そんな、決して認めてはいけない感情が、一度に溢れ出す。

──全部、不可能だと分かっているのに。<彼女>の、仲間を蘇らせるという目的には邪魔にしかならないと分かっているのに。それでもこんなに苦しくて、心から濁りが消えない。

それの、一体どこが恋ではないと言うのか。

「…………」

<彼女>は言葉を詰まらせた。
自分で──自分の心が、分かってしまった。

<彼女>の心を、他ならぬ『絶望』という感情が支配する。

人魚にとって、<彼女>のような植物は対等な相手ではなく征服するもの。間違っても相容れることなんて出来ない。そんなものに恋をして、何が待っていると言うのだろう。

<彼女>が惹かれた、<彼女>の知るロイレイの姿は、全て騙すための作り物にすぎない、とわかっているのに。

それでも──それでも、共に過ごした時間はあんなにも温かかった。居心地が良かった。

それが虚像と分かっていても、手を伸ばしてしまうくらいには。

一度知ってしまった温もりを忘れることは、ずっと氷の中に閉じ込められていることよりもずっとずっと苦しい。

それが例え幻だとしても、偽物だとしても。

──わかっている。これがどれほど不毛な想いかなど。