人魚花


そして──、<彼女>の寿命を早める要因があと一つ。

(そろそろ、開花の時期が来るわ)

一年に一度、凍れる寒さが和らぐ時期。地面が明るく色付く季節は、<彼女>たち水中花も、水面に鮮やかな花を浮かべ、水中に銀色の花粉を吐き出すのが恒例だった。

けれど──それを、今の自分がやったら。

どうなるかは、流石に想像がついた。

「……それで、死にかけの私を馬鹿にしに来たと言うの?」

半ば自嘲的にそう問うと、『違う。憐れむのは別のことでだ』とこれまた楽しそうな嗄れ声が返ってくる。

じゃあ何、と、<彼女>が声をあげるよりも早く、蛸は次の言葉を寄越した。



『……まさかお前が、人魚なぞに恋をするとは思わなんだ』



そうして、告げられた言葉は。

「……っ」

びくりと、<彼女>にあるはずもない、背筋に悪寒が走ったような感覚をもたらし。

たっぷりと頭の中で反響して、その意味を解するのに数瞬を要した。

『人魚なぞに恋をするとは』
恋、恋、──恋。

「……違う、私は……」

『何が違う?』

恋なんてしてない、と言おうとしたところで、蛸は短く問う。

『毎日お話をしてあっさりと絆され、騙されたと気付いて傷ついて、関係を切った筈なのに相手のことを忘れられず、挙句自らの目的に支障をきたすほどに気の迷いを生じさせる』

「……っちが」

『それのどこが、恋ではないと言う?』