自分で聞いておきながら、硬い口調を隠しきれていない<彼女>に、それでもロイレイは、柔らかく微笑んで口を開いた。
「もしかして心配してくれたの?嬉しいなあ。本当に、何も無かったよ。いつも通り、平和にここまで来たから」
にこにこと、そんな言葉がぴったり当てはまるような笑みとともにそう言われて、彼女はつい警戒心が緩──みかけて、はっと我にかえった。
(……いつも通り?何も無い?)
ロイレイは、確かに今そう言った。
けれど今日は、年にたった一度しかない、月がまっすぐに重なって、淡い輪郭を落とす日。
波は大きく乱れて、入り江にだって珍しく、僅かな波が入り込んでいるというのに。
そしてその波は、いつも水が出入りする場所とは違う方向から入ってきているというのに。
(──いつも通りの、はずがないわ)
彼女は知っていた。月食を起こす今日だけは、入り江に海水が入り込む入口が、いつものそれとは違うものだということを。
それに、入り江に至るまでの、広い岩礁の地帯の海流だって常より大きく乱れて、激しくなっているはず。
──だからロイレイがいつも通りに来たって、今日だけは、それでここまで辿りつける筈がないのだ。


