人魚花


「……海流が周りを囲んではいるけど、ここには殆ど入ってこないものね」

どう、言葉を返せばいいか。どう、切り出すべきなのか。

そればかりを考えてしまって、どうにも声が固くなる。

ロイレイは聡くもそれに気がついたようで、小首を傾げながら月から視線をこちらへ向けた。

「どうしたの?何かあった?」

まだ彼は、声の主がこの植物であるということを知らない。

だから、視線ははっきりとこちらに向いているわけではない。

彼は本当に、いつも通りに、そこにいた。

だからわからなくなる。何も無いのかと思ってしまいそうになる。けれど何も無いはずがない。

目の前のこの人魚が何を考えているかわからない。にこにこと笑っているその奥に、どんなものを秘めているのかが見えない。

それまでと同じように笑いかけられているのに、だからこそ、起こされる感情は、昨日とは違ってただの恐怖にしかなりえなくて。

溜めていた息を吐きだす。迷っている暇はない。早く動かないと、気付いた時には人魚の策にはまっているかもしれない。

「──ねえ、今日は月明かりがだいぶ少ないけれど、暗くなかった?迷わないで来れたの?」

直前の問いかけには答えず、珍しくも<彼女>の方から向けられた質問に、ロイレイは一瞬だけ不思議そうな顔をして答える。

「道には迷わなかったよ。僕達人魚は、嵐の夜でも支障なく泳げるくらい、ある程度は夜目がきくようになってるから、これだけ明るければ迷うことなんてないよ。ここまでの道筋は覚えちゃってるしね」

「……そう」