突然聞こえてきたその声は、慌てる<彼女>の心境とは裏腹に妙に能天気で。

──その前に、自分以外の者の声を聴いたのが、久方ぶりであったからかもしれない。

<彼女>は少し、混乱してしまっていたのだ。

だから、存在を気付かれてしまうとか、気配を消さなくてはとか、そんなことを思い至る前に、口から言葉が飛び出していた。

「……っあなた、誰……!?」

しん、と、静かすぎる空間に、<彼女>の声が響く。

相手は一瞬肩を揺らし、それから、ゆっくりと<彼女>の方へ振り返った。

その時ようやく、視界を邪魔していた蔓がもとの位置へと戻り。

(……綺麗……)

初めて<彼女>の世界へと入り込んできた彼の姿を見て、浮かんだ感想はそんなものだった。

まず目に入ったのは、鮮やかな金色だった。

海の色である深い蒼と、<彼女>自身の色である、少し黒ずんだ緑。その寒々しい色彩だけを見慣れてきた<彼女>は、彼の瞳のなかにその鮮やかな黄金を見て、まるで射抜かれるような衝撃を感じたのだ。

そしてもう一色、<彼女>の視界に鮮やか焼き付いた色があった。

それは、光沢を纏った碧。彼の下半身を覆う、鱗のその滑らかな色が、淡い月光を受けて艶やかに揺れていた。



──そう、彼は、人魚だった。