鼻を摘んで目を閉じて…

 「じゃあ、これを久嶋君に届けて、あちらからも今日付の書類を返信してもらえるはずだから、そのままもらってきてくれないかい?」
 



 …マジですか?




*****




 トントン。
 



 …………。

 …………。

 …………。




 あれ?もしかして、留守だったりする?

 もう一度、ノックしてみる。




 久嶋浩志の所属するファイナンス・グループは、あたしが所属する総務部とはまるで空気が違って、活気がないわけじゃないのに、どこか殺伐としていた。
 
 あたりまえかもしれないけど、どの人も俊英とか鋭利とか言った言葉が似合いそうな人ばかり。

 まあ、それも単なる思い込みで、偏見の一種かもしれないけど、普通に2流大学を出て、OLして、中堅どころとは言え一部上場の銀行勤めで満足しているあたしなんかとは、違う人種の人たちのような気さえする。




 トントン、三度目の正直、これで返事がなかったらとりあえず、許可がないけど中を開けて不在を確認して帰ろう。

 そう思ったところで、背後に人影。

 ハッと振り向けば、さっきエントランスフロアで見かけた怜悧な美貌が、頭一つ半高い位置で、ジロッとあたしを見下ろしていた。




 …ひえぇっ!?