鼻を摘んで目を閉じて…

 織崎さんというのは、この一部上場とはいえ、中堅どころの仲南銀行の経営者一族の人で、実際はグループの社長の息子とかそこまで近い血縁ではないそうなんだけど、その高ステータスな背景と織崎自身の高いスペック、玉の輿を望む女子社員たちの憧れから、影で『御曹司』と呼ばれてたりする。

 実は、私、この織崎さんとは大学時代の先輩を通じて、それなりに顔も知ってる仲だったりするので、そのあだ名を織崎さんが嫌っているのよく知ってるんだよね。

 織崎さん、自分に自信がある人だし、自分の実力で実績も積んでるのに、まるで七光りみたいに言われるのがイヤなんだとか。




 …そりゃそうだ。




 ま、親しいとまでは言わないけど、それでもかの織崎氏と知人だなんて、社内でも親しい希美にでさえ話せていない。




 「で?」

 「…で?」




 なんなのよ、そのニマニマした顔は。

 自他ともに認めるたぬき顔がさらに緩んで…垂れパンダ?

 いやいやいやいや―――、性格は垂れパンダどころか、オロチかマングースかって…、




 「あんた、今、なにげにあたしの悪口、心の中で呟いたでしょ?」




 ドキッ。




 「…へ?」

 「惚けんなっ!あんたって、ボンヤリした顔してるけど、けっこう腹黒っていうか、内心渦巻いてる女だよね」