ペアの片割れは…当然、希美のことには違いなかったけど、視界を塞ぐ広い背中に、あたしは内心中指を立てた。




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 「ほれ」

 「……………ありがとうございます」




 手渡された缶を押し抱き、お礼を言う。

 言ったのに…、




 「不満そうだな」

 「……いえ、コーヒーに関しては不満ではないんですけど」




 なんで、このクソ…いえ、失礼、寒い時に、寒風吹きっさらしの屋上になんて来なきゃいけないわけ?

 それでも季節のいい時は、屋上庭園をイメージして作られた行員たちの憩いの場だけど、今はよほどの物好きでもなければ誰も訪れるはずもなく、人っ子一人姿がない。




 「しょうがないだろ。どこいっても、物見高い連中が俺を監視して、人目が切れねぇ」

 「……切れねぇって、だったらそのまま、課長の執務室にいれば良かったんじゃ」




 缶コーヒー飲むなら、わざわざ場所を移動しなくっても、コーヒーくらい飲めたと思う。




 「課長室じゃあ、いつ誰が入ってくるともしれないだろ?」

 「…まあ、そうかもしれませんけど、ちょっと休憩してたくらいで、誰も咎めたりしませんよ」




 まさか、いくら忙しいからって、ファイナンス・グループではコーヒー休憩禁止とかいう?

 さっきの一般女子社員をバカにしたようなこの目の前の男の言い草からしたら、それもありえそうな気がした。