窓を開けた。
寒いほども風が、家の中に入ってくる。私は家が冷えているのを感じた。
窓を開けると、海のにおいも一緒に入ってくる。
それに加え、ある記憶も家を、そして私を冷やしていく。
今は冬だ。真冬。普通、窓を開けるべきではない季節だ。
私の手は白く、黒い空とは一切交わるはずがないのに、違いが判らなくなっている暗黒の海と空の中に溶け込んでしまう気もしてしまう。
いや、本当に溶けているのかもしれない。ある、記憶と一緒に。
さらさらと私の体が真っ白な砂の中に消えていっている。雨は降っていないはず。なのに、ぽつり、と何かが落ちてくる。
雲は一つもないのに、何一つ星は見えない。正直、海に落ちてしまったかのようだ。
さっきのあの、「ポツリ」というのは、星だったのかもしれない。
真黒な海に、空に、キラキラと光る砂と星――不思議だな、と思う。
なぜ、二つは混ざらないのか――。

この海では、私の好きだった人――片想いだったのだろうが――が眠っている。
この、砂浜の向こうで。私と決して交じり合わない海で。
「はぁぁー。」
私は今まで一年、あの人がいなくなってからの一年分の溜息を吐いた。