「実はさ…夜、舞綾と約束しててさ」

「あー…なしになったの?」

「それだけじゃなくて、楽しみにしてたのにー!ってそれからラインも既読なくてよ…」

「会うの久々だったとか?」

「かなり…バイトとかレポートとかで忙しくて、空いてると思えば今度は向こうが合わなくてさ。すれ違いばっか…終いには代わってくれっていった女の子を優先するんだとか泣き出したしよ」





明らかに悄気げた様子の隆弘に、なんて言っていいか分からず、僕はとりあえずポッケに入ってたキャンディーを全部渡した。





「レモン味…まさに今の俺じゃん」




そしたら渡したキャンディーは全部レモン味で、余計にしゅんと肩を落とす隆弘に、今度こそ僕はどうしようもなくて、とりあえずどっかでお茶することにした。




もちろんその前に、買い物は済ませるけどね!





「落ち着いた?」

「うん、わりぃな」

「大丈夫」




僕の奢りでファーストフード店に入って、とりあえずポテトなどを頼んで、軽く腹拵えをする。




「やっぱりうまいな、このポテト!」

「だね」




もぐもぐと幸せそうにポテトを頬張りながら、隆弘は僕にもポテトを差し出してきて、それを躊躇いつつも口に含んだ。




そしたら「犬みてぇ」とかいいながら笑うから、むすっとした表情で隆弘を見れば、やけに優しい笑顔で見つめ返してくる。





「つーかさ、お前は大丈夫なのか?」

「え、僕?」

「バイトばっか入れて、わざと忙しくしてたし…凛菜ちゃんのことまだ…悩んでるのかなって」

「いや…」





凛菜…。




僕はその名前を聞いて、かなり戸惑ってそして驚いた。





「やっぱり、忘れらんねぇよな…俺もそうだわ、もし舞綾と別れたらひきこもりそう」





いや、僕が戸惑って驚いたのはそうじゃない。




「でもさっき会ったときは、楽しそうだったけどなんかあったのか?」





驚いたのは、戸惑ったのは―――。





凛菜のこと、完璧に忘れていたから。




一週間前のあの夜から、凛菜のことなんか考えてすらいなくて、ただ…折崎さんとのやり取りとか約束が楽しみで、今日はなんてメールしようかとか話題を考えていたりした。




「おーい、楓純?」




なんでだ。



あんなに苦しかったはずなのに。