「…あのさ、楓純くん」
「はい?」
「…ふぅ」
「折崎さん?」
呼吸を整えるみたいに息を吐いて、さらに僕を抱きしめる力を強めた折崎さんに、思わずそう聞き返していた。
抱きしめ返しちゃ、いけなかったかな。
変な意味に捉えられてしまうのかな?
凛菜を忘れるためにしてくれてることなのに、本気になったって誤解されたのかな。
ため息みたいだった。
もしかして、軽蔑されたんじゃないかって不安になる。
「あの、折崎さん?」
「…バカ」
「へ?」
ば、バカ?
「そんな可愛いことしたら、ダメだよ…」
「…すいません、じゃあ」
「ダメ、離すのもダメ」
「え?」
「反則だよ、全く…勘違いしちゃうでしょ」
勘違い?
ってことは、やっぱり僕は誤解されてるってことなのか?
だとしたら急いで訂正しなければなんだけど…。
「でも嬉しい…ねぇ、もっとこのままでいていい?見られる心配ならないよ?人気全くない路地だし」
「…はい」
だけれど否定するよりも先に、折崎さんにそう言われてしまった。そして嫌だとも言えずに、また肯いていた。
なんだろう。
この温もり、折崎さんの体温。
あったかくて心地よくて、僕も折崎さんみたいにもっとって求めてしまっていた。
「あ、やっぱりいいや」
「え、あ…」
「これ以上ハグしてたら、キスしたくなっちゃう」
「…っ!」
「だからもう、大丈夫!さぁ行こっか」
「はい」
キスしたくなる。
そう言われた時、別に折崎さんならいいとおもってしまった。
僕は本当にさっきからおかしい。
どうして、なんだろう。
自分からキスしたり、抱きしめられたとき自分も折崎さんの腰に手を添えたり。
おまけに折崎さんとキス、してもいいと思ったし。
今日は本当に変だ。
ネジが何本か抜けてしまったのか、はたまた彼に特別な感情を抱いているのか。
そんなわけない。
違う、僕は…。
「じゃあ、ここで……本当に今日は幸せだったよ」
「僕も仲直りできて、よかったです」
別に…折崎さんのことなんて。
「うん、じゃあまた」
「はい。えっと…お、おやすみなさい」
「おやすみ」
“特別な感情なんか抱いていない”
そう自分に言い聞かせてみるけれど、ふわりとにこやかな表情に、やっぱり僕はかっこいいと思った。
僕は、折崎さんに…本当に、恋…っていうかそんなような感情を抱いているのだろうか。
帰り道、折崎さんに抱きしめられた場所で立ち止まってそのまま、上を見上げた。
だけど曇っているせいか夜空に煌めく星の光は、いくら目を凝らしても、探してみても見えなかった。