僕の中でとっくに危険信号は点滅しているのに、なぜか動けない。
それに少し身動きすれば、くっついてしまいそうな距離で、あのキスされたときみたいな苦しさが胸に這う。
「痛いんだけど…楓純くんがキスしてくれたら治るかも?」
「いや、あの…冷やした方が」
「ね、してよ、キス」
「嫌…です」
「痛たた…あ~ズキズキする~」
態とらしい態度に、僕は正直戸惑っていた。
だってしたら…きっと、この人はすぐには離してくれないと思う。
そしたらまた、叩くかもしれない。
ダメだ、できないよ。
それに、恥ずかしいし。
「早く、キスで冷やして?」
僕が躊躇っていると、さらに急かしてくる折崎さん。
スッと右手が伸びてきて、折崎さんの指先は僕の唇に触れた。
そのことにビックリして肩が震える。
折崎さんの指先は、僕の唇をなぞったり擦ったりとまるで早くしてほしいと、強請っているようにも思えた。
「…したらすぐに止めますか?」
そんな折崎さんの手を取って、僕の唇から離す。
「うん」
「本当に?」
「うん」
このままじゃ、強引にされかねないし早くキスして早く解放してもらおう。
そう考えた僕は、折崎さんに目を瞑るようにうながした。
だけど折崎さんは、
「え~見たいなぁ、楓純くんが僕にキスするところ」
なんて唇を尖らせて、悪戯に笑う。
む、無理!
だって、キスするときの顔なんか…!
自分じゃよくわからないけど、絶対見せられない!
恥ずかしすぎる。
「は、恥ずかしくて無理です!」
僕はそれならやめる…と、折崎さんから離れようとすると、腰を掴まれてまた阻止された。
「じゃあ瞑るよ…ん!」
そして、仕方ないとでも言うように瞑ってくれた。
…これは、しなきゃ…だよね?
待ってるもんね…。
男性にされるのも初めてだったけど、自分からなんてのも味わったことないから、むず痒い感じがする。
僕は躊躇いつつ、ゆっくりと徐々に顔を近づけていった。
そして、あともう少しで触れる。
そんなとき、急に折崎さんの瞼が開かれて
視線が交わった。
と、思ったら一気に距離は縮められて、本日3度目のキスをされてしまった。