もう一度、僕に恋をして。








あんな顔、夢でもみたくなかった。



いつも目元がふにゃっとした柔らかな笑みを浮かべて、そして可愛い声で…


“楓純”ってそう、呼んでくれるんだ。


それが好きで、大好きで―――。





「あいつなんか…っ嫌いだ」

「うん」

「っ…大嫌いっ…になりたい」

「そうだね」

「なんでなれないんだっ!……僕は…」




嫌いになんて、なれないよ。


裏でストーカー扱いされて、浮気されていたとしても。


それでも、好きなんだ。




「折崎さんっ…僕、どうしたらいいですか?」

「……」

「…どうやったら…忘れられますか?」




そこだけ切り取れるノートのように、消しゴムで消せる文字のように。


全部、切り取れたらいいのに。


消せたらいいのに。



まるで派手に転んで擦りむいて、治った後も消えない痣のように。



無くならないんだ。



「僕に、…っ…教えて、ください……」

「……」




僕の嗚咽混じりのその言葉に、しばらく折崎さんは何も言わなかった。


ただ、何かを考え込むかのように下を見つめていた。



僕も、無言で折崎さんの言葉を待つ。



僕と折崎さんのいる空間に、暫しの沈黙が流れてゆく。



聞こえるのは壁にかけてある時計の秒針と分針が動く音だけだった。



僕は何分待っただろう。


思っていたより短いかもしれないし、思っていたより長い間かもしれない。


とりあえず数分が経過したときだった。



「楓純くんさ…」

「…はい」



折崎さんは僕の身体をこちらにむけると、僕の顔を覗きこんだ。




「あ、あの……」





折崎さんとの距離は、とても近くてドキドキしてしまう。


こんな至近距離で男の人になんて、見つめられたことも無い。


だからか、胸が苦しくなる。



「そんなに痛いなら」

「……」

「俺が消してあげる」

「え?」



折崎さんは、意味わからない発言をするとニヤリと右の口角だけ上げる。



すると…さっきよりも顔を近づけてきて。




「お、折崎さっ…んっ」



そのまま首を少し傾けて、自分の唇を僕の唇にあてがった。



「…んっ…んん!」




僕は突然のことに呆気を取られそうだったけれど、なんとか折崎さんの胸に手を当てて、押し退けようとする。