だけど、その刹那。
僕の足は止まった。
「あ、やっと起きた?…髪ボッサボサだよ早く直してきて、朝食にしよ!」
な、なんで…?
なんで……凜菜が?
僕は目を擦ってもう一度凜菜のいたキッチンを見る。
「も~どうしたの?」
やっぱり、いる。
夢じゃ…ない?
もしかして、別れたあの出来事が夢だったんだろうか。
「ごめん、なんでもない…今直してくる」
「冷めちゃうから早くね」
「うん!」
もう、なんでもいい。
凜菜がそばにいてくれるなら、それでいい。
それにしても凜菜と別れる夢なんて、なんて悪夢を観たんだろう。
忘れよう、そんな悪夢。
僕は鏡に映る自分に、うんと肯いて顔をバシャバシャと洗った。
心無しか、ワクワクと弾む鼓動。
それは凜菜との関係がまだ、続いているということへの嬉しさからだろうか。
足取りも二日酔いのダルい身体もとても軽く思えた。
「凜菜、お待たせ……ってえ?」
だけど、それは直ぐに目の前の光景によって打ち砕かれた。
「ああ、楓純……」
「…っなんだよ凜菜、お前なんでここに元カレいんだよ」
さっきまで凜菜しか居なかった光景に、なぜか夢で喫茶店で出逢った昌樹って男がいた。
しかもさっきまでぼくが寝てたベッドで、二人とも服をはだけさせて、淫らな格好で僕を見てる。
「違うの、えっと……荷物取りにきてて…帰ったとおもったんだけど…」
「てめーもしつけーな、未練がましいったりゃありゃしねー!迷惑なんだよ、消えろよ!!」
凜菜を抱きしめながら、昌樹って男は般若のような形相で僕に向かってそう叫ぶ。
凜菜も彼にしがみついて、僕を睨んでいた。