‐23:00






ガチャ。











「ただいま。」











玄関の鍵が開いた音と同時に
愛しい彼の声が聞こえた。











「おかえりなさい。
今日も遅くまでお仕事お疲れさま。」











そう言って私は彼のコートを片付けて
コーヒーを淹れた。











「ありがとう。」











そう言ってコーヒーを飲みながら
彼は私を見つめた。











私もまたそんな彼を見つめながら
あの頃を思い出していた。











彼と交際して今日で3年目を迎えた。











彼との出会いは3年前。











当時私が働いていた喫茶店に
毎日のように通っていた男性がいた。











毎日決まった時間になると訪れ
一番奥の1人席に座り











「コーヒー1つ。ブラックで。」





と。











そして閉店間際までただ外を眺めながらゆっくりとコーヒーをのむ。











その彼の姿があまりにも絵になっていて
いつのまにか私は彼き惹かれて
自らアプローチした。











それが今の彼だ。











ふと、そんなことを思いながら
彼のことを見つめていると











「今日で3年もたったんだな。」





「ふふ。そうね。」











まるで私の思っていたことが
彼に伝わったかのように彼が言ったので
私はちょっと可笑しかった。











「あのさ..」





「はい。」











さっきまでの空気とは全く違い
いつになく真剣な表情で彼が話しはじめた。











「今日で3年目だけど
俺は明日から1日目にしたい。
どう思う?」











私は彼の言っていることが
理解出来なかった。











‐それは友達の関係に戻りたい
私と別れたいってこと?
記念日なのにどうして?
なんで今日なの?‐











私は頭の中に“別れ”の二文字がぐるぐる浮かび今にも涙がこぼれそうだった。











そしてまた彼が話だそうとするので
私は怖くなってうつむいてしまった。











そんな私を見て彼は











「ごめん。勘違いをさせたみたいだね。」











そう言って鞄からなにかを取り出し
私の前へそっと置いた。











「これ受け取って欲しい。」











私はそっと顔を上げ
目の前に置かれたものを見て驚いた。











彼が置いたものは
キラキラ輝きを放つダイヤの指輪だった。











「勘違いさせてしまってごめん。
3年間恋人として毎日ありがとう。
これからは夫婦として
過ごしていってくれませんか? 」











彼のその言葉を聞いて安心した私の頬を
さっきまでのこぼれそうだった涙が
今度は違う意味で濡らしていた。











「はい。よろしくお願いします。」











と私が涙ながらに答えると











「夫婦生活1日目頼みますよ。
奥さん。」











と彼は優しく微笑んで私を抱きしめた。











‐0:22











時計の針はもうすでに0時をまわっていた。











彼のあたたかい胸の中で











“こちらこそ頼みますよ。
あなた。”











そう思いながら私は彼からほのかにかおる
コーヒーの香りと幸せに包まれていた。











夫婦生活1日目はじまりました。











‐END‐