「姉ちゃん、明日引っ越すってマジ?」



5つ歳下の、血の繋がらない義弟は
そう言って相変わらずノックもせずに私の部屋のドアを開けた。



その顔は、焦りと苛立ちに満ちていて、心の中だけで、しまったコイツ今日帰ってきたのかと舌打ちをする。



「うん、まあ。
あっちの街に慣れときたいってのもあるし」



「にしたって早くね?
時期も中途半端だし、せめて月末までこっちいなよ」



まだ高校2年の義弟は、いつもの仏頂面に輪をかけて今日は更にご機嫌ナナメのようだ。



「でももう部屋取っちゃったから。
あんたは余計な心配しなくていいの。
……それより修学旅行、どうだった?」



そそくさと話題を変えようと微笑むも、彼はもう子供じゃない。
騙されてやらないとでも言いたげにズカズカとこちらに歩いてくる。



「なあ」



「……何よ」



「俺のせい?」



「……………」



張り付いた笑顔のまま、私は彼を見つめた。



「……俺の気持ち、知ってるからだろ」



そう言って、切なげに、悔しそうに、顔を歪ませる。



その目とかち合った途端、泣きたいような衝動に駆られる。
ごめん、と訳もなく謝りそうになってぐっと口を噤んだ。



肯定したら、戻れなくなる気がした。



「………何?変な顔して。
何のこと言ってるのか分かんない。早く家を出るのはあんたのせいじゃないよ。
就職先が寮だし早めに来てもいいって言ってくれたから甘えただけ」


「でもっ……」



「ほら、もういいから、お姉様にお土産渡しなさいよねー。
京都でしょ?いいなあ、あたし八つ橋超好きー」