彩羽とその帰国子女が一緒にいる姿を見るのが、日が増すごとに増えていくのを無意識のうちに感じていた
それでも朝の登校は一緒なのは変わらないし、彩羽との接し方や距離間だってなに一つ変わらない
だから、それでいい

2年生になって初めてのテスト終わり
部活も休みということもあって、彩羽が前から行きたがっていたたい焼き屋に彩羽と行くことになっていた

「テスト終わったー」
「最後の最後にキツイ教科の来て、もうだめかと思ったけど、なんとかなりそう」
「サトのお陰で難を逃れたと、、、 思う」
教室でサトと、テストから解放されて会話が弾む
他のやつらもあっちからこっちからと話声が聞こえたり、久しぶりの部活に燃えているやつもいる

「今日部活ないし、この後どっか行くか?」
「今から、彩羽とたい焼きー」
「あの、新しいとこ?」
「そう、彩羽が凄く勧めてて」
「俺も今度行こうかな、あとで感想な」
「おう」

隣の教室から、帰りのSTが終わるのが聞こえる

「んじゃ」
「明日ー」

自分の教室を出て、隣のクラスへ彩羽を迎えに行く

彩羽はいそいそと鞄に物を詰めながら、周りの子と話しているようだった

少し待つと、彩羽が教室から出てきた
「けーちゃん!テストお疲れ様ー」
「教えてくれてありがと」
「いえいえ」
「いこっか」

歩き出そうとしたとき、彩羽の後ろに帰国子女がいることに気が付いた

「けーちゃん、ルイも一緒にたい焼き行ってもいい?」

彩羽の後ろにいる帰国子女は俺の様子を窺うように小さくなっていた

別に拒否する理由もない

ただ、、、

「かまわないけど、俺、いたら邪魔じゃない?」

彩羽は首がとれるかというくらいに首を振って否定する

「私が凄くルイにも勧めたの
で、ルイも行きたいって話で
絶対にけーちゃんは邪魔なんかじゃない」

帰国子女も伝わったのか
「逆にオレが邪魔じゃないか、、、 」

初めて、帰国子女の声を聞いた
以前から、彩羽に帰国子女の話を沢山聞いていたから、今さら普通に日本語を話しても驚きはしない

「もう!私は3人で行きたいんだから邪魔じゃないよ」
と彩羽の言葉で結局3人で行くことになった

行く道で彩羽が2人を紹介した
「こっちはルイで、こっちはけーちゃん」
実際、話すのは初めてで、彩羽のお陰で、ルイの中身は随分知っているばっかりだった

「けーちゃん、初めまして、ルイです」
「いや、慶介でいいよ
皆、慶介って呼んでるから」
「じゃあ、僕もルイって呼んでください」
2人とも硬い

「けーちゃん、ルイ、凄く照れ屋なんだ
ルイもけーちゃん、優しいから楽にしてて大丈夫だよ」
彩羽の言葉が、まるで2人の架け橋のように感じる

彩羽の言葉が架け橋となって、だんだんとルイと俺の間に会話が成立してきた

お店に着くころには結構、会話ができていた

「けーちゃん、ルイ!!ここ!」
到着した、たい焼き屋は昔ながらという感じを漂わせているが最近オープンしたばっかりのお店だ
「もっと、new!!って感じのお店だと思ってた」
「なんか、もともとあった店舗をリフォームしたって言ってた」

彩羽はそそくさとお店に入っていく
それに続いてルイも俺も店に入っていく

「いらっしゃいませ」
おばちゃんといった感じの人が出迎える
店内は平日の昼間なのでがらがらだ

「日向高校の生徒さんかい?」
「はい!」
聞かれた質問に彩羽は元気よく答える

「学校で、ここのたい焼きの話し聞いて来たいなーって思ってて来たんです」
「あらっ、学校で広まってるの!?」
おばさんはすぐに話す向きを変える
「あんたー、日向高校で広まってるそうよ」
おばさんは奥で準備している旦那さんに話しかける

「ほー、よかったな」
嬉しそうな声が返ってくる

「おまえ、話もいいが、注文聞けよ」
「はーい」
おばさんも機嫌よく返事をする

「ごめんね、注文なんだった??」
「私はあんこのたい焼き」
急に注文を聞かれて焦ったが、目に入った抹茶という言葉に飛びつき悩む暇なく答える
「俺は抹茶で」
「オレもあんこで」
「受けたまりました
ちょっと待っててね」

おばさんは奥に入って行って旦那さんを連れてきて、俺たちの目の前で3つたい焼きを焼き出す

焼くのを待つ間に席に座る
「けーちゃん、抹茶好きだよね」
「うん」
「ルイはあんこ派なんだね、私と一緒」
「あっいや、、、 」
少しルイが焦る
「彩羽が、あんこって言ってたから」
やはり照れ屋は筋金入りのようで、どこか照れているのがわかる

「彩羽、あんこ好きだからルイに前から結構あんこ押しって言ってたんじゃないの?」
「そうかな、、、 
そうだとしたら無意識だ」
彩羽は照れたように笑う

そうこうしているとたい焼きがやってくる

「お待ちどうさま」
「ありがとうございます」

彩羽が3つのたい焼きを受け取ってそれぞれに渡す

「他のとこより大きい!」
「そう!」
おばさんは凄くうれしそうにうなずいて、ごゆっくりと言い残して店の奥へ入っていった

彩羽は一番にかぶりつく
「おいしい!!」
それを見て、俺はかぶりつく
「うん!たしかにおいしいな」
最後にルイがかぶりつくが「Oh!!、Hothothot」と顔がどんどん赤くなる
俺は急いでルイに水を渡す

水を渡してから、ルイはすごい勢いで結構水を飲んで、熱さは収まったようだ

「Ah~、Thank you 慶介」
「ユアーウェルカム」
「大丈夫?ルイ」
彩羽は心配そうにルイを見る
「大丈夫だよ」

ルイの大丈夫という言葉に、彩羽は一連の流れを思い出して笑う
俺たちもつられて笑い
それが、ルイの緊張を程よくほどいていった

「ルイは猫舌?」
「ネコジタ?」
「猫舌は熱いものが苦手って意味」
「Yes、yes」
「そっかー、私もけーちゃんも結構熱いの大丈夫だからルイは大変だね」
「But、そこまでじゃないからラーメンは熱いままがいい」
「ラーメン熱くなかったら、冷麺だよ」
「でも、もうすぐ夏か
夏なら冷麺、ちょうどいいか」
「冷やし中華とか?」
「前に、サトがおいしい冷やし中華の店、言ってたな」
「海のところの?」
「いや、彩羽に言ってないと思う」
「なら、夏行こうよ、3人で」
ルイが少し戸惑っていた
俺は特に気にすることもなかった

「オレも?」
ルイは心配そうな顔で彩羽をみる
彩羽はもちろんとあのとびっきりの笑顔で答える

「夏休みまでもう一つテストあるけどな」
「うん、多分補修にならないから大丈夫だよ」
「彩羽はちゃんと先生の話聞いてるもんね」
「うん、先生にいつ当てられても大丈夫だよ」
そのころにはルイも笑って話に入ってこれていた

帰り道、ルイとは方向が逆で駅で別れた

「慶介、彩羽、ありがとう」
「またねー」
「また」

彩羽と2人の帰り道、いつも2人なのに今日は1人足りないような気がしてしまう
久しぶりに3人という空間にいたせいだろうか

「ルイ、照れ屋だけどなれたら話やすい子でしょ?」
「うん」
「けーちゃんももっと話していったら仲良くなれるよ!」
「うん」

だんだん、彩羽の家が近くなってきて、彩羽の口数もいつもより少ない

いつもバイバイする路地で彩羽がいつも通りバイバイをする
「気をつけて帰れよ」
「また明日、、、 」

まだ何か言いたげな彩羽にどうすればいいかとまどう

「けーちゃん、ルイを誘ってほんとよかった?」

一瞬、ルイといて嫌だったのかを聞いてるのかと思ったがそうじゃない
いや、そうなのかもしれない

彩羽と俺の深い溝を感じる
と、同時に強い結束も感じる

ただ、思った通りに答える

繕っても、すぐに彩羽にはわかってしまう

「ルイはいいやつだと思うから、紹介してくれてよかったよ」

少しの間をあけて、次の言葉を発する

「3人でいる感覚、、、 久しぶりだったな」

あえて、触れてはいけないところに触れる

彩羽は無言で触れろという

お互いの会話からあえて避けていることに触れようとする

触れることを恐れて触れないでいると、いつか本当に消えてしまいそうで、2人だからこそ認知し合って時々触れることで確認する

ちゃんと消えてないことに

「うん、、、 私もだよ
でも、ルイじゃ違う」

呼吸がしずらくなるくらいに空気が重い

「うん」

沈黙が漂って、何も言い出せない

ここから立ち去ることも、言葉を発することさえも許されないような空気


「けーちゃん、今日ありがとう
ルイと仲良くなってくれてありがとう」

彩羽はくるっと自分の家に向かって歩き出す

決して振り向きはしない

俺は少しの間立ち止まっていたが、自分の家に向かって歩き出す

俺たちは歩いているんだ