「これ、ミッキーおばあちゃんから」
まだ慣れないため口で
恐る恐る話しかけた
思わす語尾に…だそうですとつけそうになったくらいだ
「ネクタリン?」
「えっ!知ってるんだ」
思わず知っていることにびっくりして
大きな声を出してしまった
咲は少しびっくりしたような顔をして
黙り込んだ
いかにも大きな声を出す人嫌いそうな人だ
「ごめんなさい、大きな声出して」
そういったものの怖くて顔は見れない
すると、手からすっと小さな桃が一個すり抜けた
もう一つが落ちそうになったのを必死に止める
「えっ」
咲はそれを口に運んだ
「まだ酸っぱいな」
口元の桃の汁が夕焼けに反射して
キラキラしていた
「すぐ謝らなくていい。そういうのめんどくさい。俺はそんなに短気じゃないし」
桃の甘酸っぱい爽やかなにおいが包んだ
「はい」
「敬語」
思わず出た敬語に咲は素早く突っ込んだ
「うん」
それに納得したかのように咲は再び桃を食べ始めた
私も口に運ぶ
皮ごと食べることにだいぶ抵抗があったけど
思い切って噛んでみた
じゅわっと甘酸っぱい汁が
乾いた口の中に広がった
「おいしい」
思わず出たその言葉に
咲は少し微笑んだように見えた
初めて食べたその甘さに口が慣れたころ
私の中から咲への恐怖心が少しずつ消えていることに気付いた
