迷い風


「まあ、いろいろあるよね、友達関係も」

ぼーっと考え込んでいるとひーは私の肩をたたいていった

「そうだね」

「まあ、そらにはひーという素晴らしい友達が増えたんだから、安心せいっ」


ひーは本当にいい子だ
ひーといると自然と笑ってしまう

自分のことを名前呼びする女の子ってわがままなイメージがあったけど
きっとひーは違う

「ありがとう」

私もこうなりたいって素直に思える

「枕投げしちゃう?」

ひーはいたずらっぽく笑う

「枕投げするの?」

「もうなんか、うれしくて。ずっとかえりんと二人だったからさ~、兄弟が一人増えたような、家族が一人増えたような。ほらっ、えいっ」

ひーが枕を投げたとき
ちょうど夏の夜の風が部屋に吹いた

風鈴がちりんとなって
夏の匂いが部屋に入り込んだ

「なんか風が強いのかな」

私が枕を投げ返さずに
握りしめていたらひーが不思議そうな顔をしていった

「そうかもね」

「閉める?」

「いや、平気!なんか夏だなーって思って」

「今さら~?」

「だね」

昨日まで夏が来ていることを意識していなかった

そりゃ、天気予報を見て夏服に着替えたりはしていたけど
こうやって夏を感じたことはなかった

だから風がこんなに爽やかに吹いてきたことがなんか不思議で
感動的で
まるで春に季節外れの雪をみた感覚だった