あの日。


いつもの放課後。


紅葉が綺麗な日のこと。



「あ、岩井さん。この本、面白かったよ。ありがとう」


「……こちらこそ…いつも読んでくれて……ありがとう…」


「いや、岩井さんが紹介してくれる本、いつも本当に面白くて読書苦手なおれでもさくさく読めちゃうんだよね。ほんと、ありがとな」


「………………………」


「…岩井さんは、何でそんなに本読むの好きなの?……これは答えたくなかったら答えなくて全然良いんだけど」


「………………それは……」








「ねえなんで喋らないの?」

「喋ってくれなきゃこっちも分かんないよ」

「言いたいことがあるならちゃんと言ってよ」

「もういいよ喋らないなら……」








「……………………」


人と関わるのは疲れるから。


言いたいことを言えないのは本当に辛い。


本当は話したいこと、たくさんあったのに………


わたしの口はいつも思うように動かない。


あ、また余計なこと考えてたら話すタイミング無くしちゃったかな…


ふと上野君の方を見てみる


彼はまだこちらを見て、わたしが話すのを待ってくれていた。


「……………………」


上野君になら、話せるかもしれない……


わたしは勇気を振り絞って話した。



「わたし、小さい頃から人と話すのが苦手で……………。

頭の中ではいっぱいいろんな言葉が出てくるんだけど………全然言えなくて………。

でも、図書室は静かで、落ち着けて…………

本を読んでたら人と接しなくて済んだから……だんだん本ばっかり読むようになって……………

それで……」



「…そっか…話すの苦手なのか…」


そして上野君はこう言った。




「俺は喋ってる岩井さん、けっこう好きだけどな」





そのとき、わたしの世界は広がり始めたのだ。