そして今日も、わたしは上野君にオススメの本を教えてあげた。


「………………どうぞ………」


「おー、いつもサンキューな」



上野君はまたにこっと笑って言った。



上野君の笑顔は、いつも優しい。



優しくて、温かくて、眩しくて


「………………………」


と。


急に胸が締め付けられるような感覚に陥った。


何だろう、この感覚?


何なんだろう





夜8時。消灯時間。


図書館の鍵を閉めて、上野君とは入り口で別れて真っ直ぐ帰宅する。


家に着くのは大体8時半くらい。


お母さんが作っておいてくれた夕飯を温めて食べる。


わたしは食べながらずっと、今日のあの胸が締め付けられるような感覚は何だったのだろうと、そんなことを考えていた。


胸が締め付けられるような


切ないような


苦しいような


初めての感覚。


しかもどうして上野君の顔を見てそうなってしまったのだろう…


「………上野君」


あの眩しい笑顔を思い出す


それだけじゃない。


授業で居眠りしてるところ。


友達と教室で楽しそうにお喋りしているところ。


本を読んでる横顔。


先生の話を聞きながらつまらなそうにあくびをしているところ。


肘をついて窓の外をぼーっと眺めているところ。


少し寝癖のついた髪。


真っ白なシャツに、少しよれたネクタイ…


「………あれ?」


あれ。


わたし、いつの間にこんなに上野君のこと見ていたんだろう。


何でこんなに見ていたんだろう。


「あれ……あれれれ」


気が付けば頭の中が上野君でいっぱいになっている。


何で?


どうして?


いつからこんな風になってしまったんだろう


「………あ」


こういうの、本で読んだことがあるかもしれない。


こういう感情は、たしかこう言うのだ。


「恋だ」