ある日の午後、セナは国王に呼ばれた。
ついにセナの婚約者が決定したのだった
「よく来た。キルトも一緒か」
国王はまるで娘の行動を分かっていたかのように少し微笑むとすぐに真面目な顔に戻り、セナを見つめた。
それからしばらく、沈黙が続きセナは少しだけ顔をあげた。
国王はセナと目が合うと静かに二人に背を向け上を見上げ深呼吸をした。
「セナ、我が国に敵国があるのは知っているな?」
「…?はい。存じております。隣国の…」
「そうだ、フェンデリオ王国だ」
「…まさか!?」
二人の会話に勢いよく顔をあげたのはキルトだった。
国王は向きを二人に戻し、一瞬悲しそうに目を伏せたが、すぐに力の宿った目をセナに向けた。
「そこの第一王子との婚約が決まった。この婚儀が無事終わればフェンデリオ王国と我が国は平和協定を結ぶ」
政略結婚が分かっていたとはいえ、嫁ぐ先が敵国だと知り、セナとキルトは互いに口開けたまま固まっていた。
敵国に行くと言うことは、多かれ少なかれ迫害はあるだろう
ましてや第一王子、向こうに受け入れる気持ちがなければ早々に何かしら理由をつけて殺されてもおかしくはなかった。
そんな場所に、国王は、いや、セナにとっては『父』が身を捧げろと言うのだ。
日頃、国のために国民のためにと教え込まれていたセナでさえその恐怖に、悲しさに無意識のうちに涙をながしていた、
なにも言えなくなっているセナを見て、キルトは床におでこがつくぐらいまで頭を下げた。
「国王様、このキルトも同行させてください」
「…キ…ルト?」
「俺が、セナを守ります。護衛として、使用人として、俺も一緒に行きます」
「な、なに言ってんだよ。駄目だ。キルトまで敵国になんて…」
動揺するセナとは裏腹に、キルトは覚悟を決めた目を国王に向けていた。
「わかった。向こうも、使用人をつけても構わないと言っている。キルト頼むぞ」
「はっ!!」
「駄目だ。キルト…」
「大丈夫だ。セナ。離れるなんて、寂しいこと言わないでくれよな」
キルトがセナに笑いかけると、セナは下唇を噛み締めて頷いた。
「承知いたしました。父上。このセナ、我が国のためフェンデリオ王国の第一王子と結婚いたします。」
まだ涙は流れてるものの国王を真っ直ぐに見つめセナは決断した。
それを聞いた国王の返答は
目に少し涙を浮かべていた為か、無言で少し頷くだけだった。
こうして、セナはキルトと共にフェンデリオ王国へと旅立つのだった。

