セナはこれまでのことを思い返していた。
本当の男の子だと思っていた幼い頃
人と違うからだに、戸惑い・不安を感じ自分が女性だと知らされた少年期
体の成長を隠しながら、心も揺れていた思春期
やっと、心の整理をつけて前を向来はじめたところだった。
「……結婚か」
セナが何もない空に呟くと、背後から声がかかった。
「ついに嫁候補探しか?セナ」
勢いよく背後を振り向いたセナに、声をかけた男は軽くほほえんだ。
背丈はセナより高く、筋肉はついているが重い印象は与えないルックス
声をかけたのは、幼なじみで親友のキルトだった。
「キルト…。…。」
「おいおい、なんでそんなに暗いんだよ?」
「…。」
「…ちゃんと、事情を理解してくれる奴を探してくれるさ。国王様なら」
キルトは、セナが女性だと知っている。
そんなセナの事情を理解して、いつも協力してくれていた。
そんなキルトの言葉に、セナは泣きそうになるのを唇を噛み締めて耐えていると
キルトはそっとセナの横に来て肩を抱いた。
「大丈夫だよ。俺がいるだろ?」
辛いときにいつもかけてくれる優しい変わらないの言葉に、セナは涙をこらえることができず、とうとう泣き出してしまった。
それでも、幼なじみで親友のキルトにだけは
王妃から伝えられたことをきちんと話さなくてはと、重い口を開いた。
「キルト…、私は王女になってどこかに嫁ぐらしい」
「…は?」
「母上が妊娠したんだ。弟が出来る」
「…。それで、お前は王子でいなくても良くなったから、王女になって結婚ってことか?」
「さすが、頭がキレるな。王女になれば政略結婚が常だ。私も例外ではない。
例え、王子として学業や剣術が出来たとしても…」
これまで共に学業や剣術に取り組んできたキルトはセナが人よりも努力していることを一番見ていた。
もし、女性だとバレたときに国が揺らがないよう色んな知識を誰よりも求めていた姿。
他の兵士にバレないように、女性の体で必死に取り組んでる剣術。
時には心のバランスが保てず、自分の前でだけ子供のように泣く姿。
これまでの苦悩を考えると、何をしたらいいのか分からず
キルトは抱いた肩から手を離しそうになった。
だけど、セナの涙が零れるのを見て
キルトは手の力を強め自分の方へ引き寄せ頭を軽くたたいた。
「大丈夫だよ。…俺がいるだろ?」
「…ありがと」
セナはそれだけ口にすると静かに溢れでる涙を止めるこなく流した。
キルトの前では 我慢しなくていい、隠さなくていいと知っているからだ。
泣かしてくれる友がいる
支えてくれる者が側にいる
それだけで、セナの心は軽くなっていた。
両親が告げてくる婚約者を、キルトと待つ覚悟を決めた。

