革命のおにぎり

「ちょっと来栖先生、うちの校則じゃあ遅刻した生徒に対してそんな罰則はないでしょうが。昼ご飯を取り上げるだなんてあんた、さすがにやって良い事と悪い事があるんじゃないの」


 急に話しかけられた来栖先生は何よりも先にスマートフォンの画面を伏せた後で、主任の襲来にひどく驚いた様子で目をぱちくりさせた。なんだか気まずくて私は小さくなりながら見守る。

 先生は目を泳がせた末にそんな私を見つけて、「ああ」と明るい声を出して安心したような笑みを浮かべた。自分にまるで非が無いことを思い出したのだ。


「あらやだ先生、昼ご飯なんかじゃありませんよ。この紙袋なんです。浮き足立ってくだらないお菓子なんか用意して、それで遅刻するだなんて・・・」


 先生が足下の紙袋を雑に引きずり出す。しかしその中身を主任に見せようとして、その瞬間固まった。

 袋の口から覗いたそれに、主任の顔が険しくなる。


「おにぎりじゃないか」

「おにぎりです・・・」


 来栖先生はどこか意地の悪い笑みから一転、真っ青になって固く口を結んだ。愚かにもそれまで袋の中身を確認していなかったのだろう。


「春野さん。早く、持って行って食べなさい」

「ありがとうございます!」


 穏やかに微笑む主任にぺこりと頭を下げ、紙袋を来栖先生から取り上げるようにして抱える。先生に浴びせられている怒声を背中に、私の心は晴れやかで、袋は羽根のように軽く感じた。


「しずえちゃん、ありがとう!このご恩はおにぎりで返すから」

「昼休み終わるね」


 職員室を出たところで時計を見ると、確かにあと5分で次の授業だ。クラスみんなにおにぎりを味わってもらう猶予は無い。


「大丈夫だよ。これなら放課後すぐに渡せばどうにかなると思うし」

「放課後ねえ・・・」

「え、なに?」

「放課後におにぎりか・・・」


 何故か難しい顔をしたしずえちゃんが今度は何を考えているのか分からないけど、とにかく私はチャンスを得た事に興奮していた。