「ねぇ、海斗。知ってる?」
アユミはそう言って、砂浜にしゃがんだ。
人気のない砂浜。
聞こえるのは、波の音だけ。
「ほら。」
アユミは、手の平を俺に差し出した。
その小さな手の中には、星の形をした砂が7つ。
「星の砂を7つ集めて、海に投げると幸せになれるの。」
アユミは、そう言ってにっこりと笑い、立ち上がった。
「海斗が幸せになれるように、海に投げるね。」
アユミの手に握られた星の砂が、海に投げられる瞬間、俺はその手を止めた。
アユミは、驚いた顔で俺を見た。
「投げなくていい。そのまま、俺にくれないか?」
アユミは嬉しそうに頷き、星の砂を俺の手の上へ落とした。
アユミが居なくなる前に、何か形に残るものが欲しかった。
俺は、それを大事にポケットの中へ入れた。
“シアワセ”か…。
この頃の俺は、アユミと結ばれることが幸せだと思っていた。
でも、それは違った。
アユミがいてくれるだけで、幸せだったんだ…。
それ以上のことを求めていた俺は、なんてガキだったんだろう。

