「海斗、完全にここみに惚れてるね!あいつ、不器用なくせに、強引だからなぁ…。」
雫が、冷たいペットボトルを自分の頬に当てながら言った。
ペットボトルは、汗をかいている。
「それは…ないよ。絶対…。そ、それに私!あいつ嫌いだし…困る。」
私は砂浜に座り込み、動揺しながら自分の体を抱きしめた。
肩にかかる長い茶色の髪は、しばらく染め直していない。
ここに来てから、潮風のせいで少し傷んでしまった。
「気付いてないのは、ここみぐらいだよ!きっと空も気付いてると思うし! ここみは、本当に海斗のこと嫌いなの?」
客の波がおさまると、雫はさっきまで自分の頬に当てていた冷たいオレンジジュースを私に差し出しながら、私の隣に座った。
私はそれを受け取り、今度は自分の頬に当てた。
私は、もう1度考える。
思い浮かぶのは、初めてあったあの夜。
健一にフラれて家を飛び出した私を、追いかけてきてくれたあの夜…。
「ううん。嫌いじゃ…ない。でも、好きでもない。好きだけど…好きじゃない。」
「分かるよ、その気持ち。私も、そうだったから。」
「え?」
私は、思わず顔を上げて雫を見た。
さっきまで遠くの海を眺めていた雫は、にっこりと私に笑顔を向けた。

