一面に広がる田んぼ道。

コンクリートで固められた道が、じりじりと熱を伝える。


空なんか見る元気がなくて、下ばかり見て歩いていたせいで、枯れた草や、犬のフンなんかがよく目に入った。



「よう!ここみちゃん!もう夏休みかぁー!?」



その声に、私は顔を上げた。

私の名前を呼ぶその人は、私のおじいちゃんの友達の竹田さんだった。


竹田さんは、年のわりにとにかく若い。

いつも、白いシャツに麦藁帽子姿で田んぼにいる。

真っ黒な肌に白い歯が際立ち、健康的だ。



「うん!おじさんも相変わらず元気だねえ~!」



本当は夏休み5日前なんだけどね。

今頃学校はすごい騒ぎになってたりして。



「わしゃあ、いつも元気だぁ!仁三さんなら、家に居ると思うよ!」


「分かったぁ!ありがとぉー!」



仁三とは、私のおじいちゃんの名前。

おばあちゃんが早くに死んで、農家をやりながら一人暮らしをしている。


おじいちゃんがいるこの田舎は、私の大好きな場所。

この大自然が、何もかも忘れさせてくれるから。


私にとって、長い休みの日や、嫌なことがあったときは、おじいちゃんの家に行くことが恒例だった。