俺は階段の壁に身を隠し、思わず目をつぶった。
でも、2人の残像は消えない。
俺の頬を涙が伝った。
行かないで、アユミ。
アユミ……。
「ここみ。俺、お前のこと1秒1秒好きになってく。すげー好き。」
「私も大好きだよ、海斗のこと。」
もう、見たくない。
もう、聞きたくない。
アユミに『好きだ』と言って欲しかった。
俺が欲しくて仕方がなかったその言葉を、海斗はいとも簡単に手に入れやがった。
海斗を憎んだ。
でも、あいつはアユミの死を乗り越えた。
あいつは、アユミではなく、ここみそのものを見ている。
しっかりと現実を受け入れ、前に進んでいる。
それに比べ、俺は…。
本当は分かっている。
海斗は何も悪くない。
必死でアユミを守ろうとしていた。
海斗自身も、相当苦しんだはずだ。
ここみをアユミだと思ってしまったことも、きっとあると思う。
海に入ろうとするここみを必死で止める姿を見て、そう思った。
でも、俺はもうだめだ。
ここみはアユミにしか見えない。
いつか来るだろうか。
アユミを忘れられる日が…。