尻を地面から浮かせた所、民家の庭から話し声がした。
「今日は何時頃?」
「暗くなる前には帰るよ。」
なんでも無い会話だ。足音が近付いてくる。見ればぼくとゆうが座り込んでいた民家からだ。足音はどんどん近付いてくる。このまま民家の前にたむろしていれば、家の人の迷惑になるだろう。さて、早くどけなきゃな。やけに重たい足をえっちら動かす。なんとか家の真正面から動いた時、住人は姿を現した。
「あ」
「あ」
「…」
機能停止。
出て来た人はつい先程までぼく等を追っていた奴等の一人だったから。
何よりもまず、終った、と思った。そしてなんで先回りして家に帰っているのかそりゃ車だろそうか車か早い訳だもう夕方なのにお前何してんだよ仕事しろよ仕事なんだよ。
とパニックに陥っていたぼくを正気に戻したのは左手を引かれる感覚。無い力を振り絞って、なんとかぼくを引っ張ろうとする弱々しい力。
ぼくは1秒にも満たない時間でパニックから立ち直り、ゆうが引っ張る倍の力でその手を引いた。逃げ道は考えていない。けれど、とりあえずでもこの場を離れなければ!
「こう!こっち!」
力強く引いていたはずの左手がぴんと突っ張る。ゆうは立ち止まっていた。
「馬鹿!早く…」
「ここ!入れる!」
ぴっと左腕を真横に上げる。確かにそこには横道がある。いや、横道というよりは家と家の間。間というよりは隙間といった感じ。通れなければ、通り抜けれなければアウト。しかし考えている暇は無い。ゆうの背後にはすでに先程の男が迫っていたから。
「ゆう!」
「ん…!」
走り過ぎて充血した目。ぼくはそのまなざしだけに賭けて、猫しか通らないような道に飛び込んだ。