右手を伸ばしてベランダと部屋とを区切っている窓のカーテンを勢いよくめくる。
サァと光が入ってきて、いままで陰鬱なイメージしかなかった部屋を光で満たす。外の天気はカーテンから漏れてくる光から予想していた通り、快晴も快晴。ほんのりとつつましく残っている雲などは、「く・・雲ひとつ無いわけじゃないんだからねっ!」と謎のツンデレっぽさまで発揮しているようで可愛らしかった。ぼくちょいキモですね。
窓の外は左目視界限界から右目視界限界までほっとんど海。左前方にちょこっと島が見えた。28年連れ添ってきた瀬戸内海は、5月にしては強い太陽の光をキラキラと反射して顔にフラッシュにも似た輝きを放ってくる。
二階にあるベランダから少し下に視線を移してやっと庭。庭といってももちろん芝生なんかあるわけもなく、茶色の地面が素肌をさらけだしている。車が一台も止まってない所を見ると、昨夜は下の事務所に勤めている作業員の方々は休みのようだ。
そのいつもは誰かの車が停まっているはずの場所の一番端に自分のバイク。
新品でも異常な安さが取り柄の原付は、いつにも増して美しく見えた。
クリーム色の車体はまったく洗ってもいないのにピカピカと光を放ち、泥まみれであったはずのスタンドも黒光りを放っている。
スラリと伸びたジーンズは今流行りのすきにーじーんずというヤツであろうか?細い足がさらに引き締められ、美しい流線型を見せている。”どうだ”といわんばかりだ。
その上に羽織ったジャケットは少し古着テイストなのだろうか。どこか寂れた感じのする黒のベロアジャケット。ボタンの数まではここからは見えないが、多分2つぼた・・・
「やろうっ!!」
全然知らない人が人の庭(おれのじゃないけど)に入って人のバイク(これはおれの!)に跨ってやがる!!
僕は靴下も履かずに靴をひっかけに玄関に飛び出した。