とても温和な人で、声を荒げたのを聞いたことが無い。痩せていて、病弱そうな所がゆうに良く似ていた。
その勤務表を見て、ぼくは確信した。
ゆうは少女を連れて”南”に逃げたのだと。
この話は誰にも話していない。ゆうの父親にも。母親にも。誰にも。
確かな確信。けれどぼくは・・・・どうしてもその橋を渡って行けなかった。
ゆうに会いに・・・行けなかった。
ぼくの独りよがりなのではないかと。
ゆうはぼくに会いたくないのではないかと。
そう思うと、いつも足が止まった。
白状しよう。ぼくは何度も橋を渡ってゆうに会いに行こうと思い、そして挫折していた。
時には仕事を、時には彼女を引き合いに出して。
橋に背を向けて「しょうがない」と呟いたぼくの顔はどんなだったろう?
薄く笑ってやしなかったか?行けないのは仕方ないと、安堵していやしなかったか?
いつまでも守ってやるだなんて、恥ずかしい。
ぼくは嘘吐きだ。最低の・・・・嘘吐きだ。
ぼくと2人で住みたいと言った幼馴染を。いつもぼくの後ろをついてきた幼馴染を。
裏切ったんだ。
もうぼくはどこにも行けやしない。
ただ1つ繋がっていただろうゆうにさえ、ぼくは繋がってはいやしなかった。
ただ真っ白な世界で、ぼくの限界はどこだろうと歩いて。
他の人に触れる度その限界を思い知って。たまに泣いたりなんかして。
がんばって歩いて来たのに。
ぼくはもう、歩けない。歩かない。こんな嘘吐きは・・・死んだほうが良い。
自分で自分の首を絞めて死ねるなら、今死にたい。
きっと気絶してしまってトドメがさせないのが残念でたまらない。
ぼくは世界でただ1人だ。
どこにだって繋がってない。どこにだって繋がらない。
介錯だって、誰もしてはくれないんだ。