「な、なにしてるんですか?」

「お姫様抱っこ」

そんなの言われなくてもわかるわい。

心でツッコミをしている場合じゃない。

彼は、私をお姫様抱っこをしてどんどんと歩いていくから振り落とされないように首にしがみつく。

スタッフ出入り口のドアを私を横抱きのまま難なく開けて出口に鍵を閉めた。

このままどこに向かうのだろうと思っていたら、お店の外にある非常階段らしきもの。

あれ?

一度も上がったことはないけど確かその先は物置とかという話だったような…

階段に一歩踏み出した時

「じん」

背後から聞き覚えのある声で叫ばれた。

顔だけを振り向く彼と一緒に肩越しに後ろをのぞくと、そこには佐和さんがいて…

「まだ、なんのようだ?終わっただろう」

冷たくあしらう男に綺麗な顔を歪ませ唇を噛みしめている彼女の手からキラッと光るものが見えた。

「私のものにならないなら死んでよ」

鬼気迫る迫力で近寄ってくる彼女に、男はいたって冷静に返す。

「こいつを抱いていないのに死ねるか」

そう言うと、足技で佐和さんを蹴り飛ばしていた。

うわっ…痛そう。

「俺が空手してたってことわかってて無謀なことするな」