それどころじゃないと無視をしてロッカーから化粧ポーチを出して、大きな移し身鏡の前で身だしなみを整える。
よし…オッケー
……?
背後に立っている不貞腐れてる男と鏡越しに目が合う。
「店長…?」
「…ムードが台無しだ…営業後覚悟しておけよ」
鏡越しに見える悪魔のような笑みとセリフに、体が小刻みに震えた。
覚悟って…私、どうなるの?
突然、背後から両肩に男の手が乗り、身動きがとれない。
緊張で強張る体と顔。
笑みを携えたまま男は、耳を食み、舌先で輪郭をなぞりだすから顎が声とともに仰け反る。
「……ハァッ…んっ‥」
気を良くした男は、耳元で囁く。
「体は素直だなぁ」
クスリと笑い、頬にチュッとリップ音を立て、鏡の中の私を見ながら再び意地悪く笑った。
「…真っ赤…フッ…先に俺が行って準備しておくから落ち着いたら出てこい」
からかうように頭をポンと叩いて出て行った。
鏡の中の私は、ゆでダコのように真っ赤かで、手で扇いでも熱が冷めない。
もう…バカァ…悪魔め。
呪われろ…
そこにあるカーテンに向かってシャドーボクシング。
ドアが開き
「凛さん?」
名前を呼ばれ更に頬を熱くする羽目になった。



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