ううん…と首を左右に振るしかできなかった。
だって、目の前にいる男が辛そうな表情をしているから何も言えない。
ポンポンと頭を撫でている反対の手は、ポケットからスマホをとり、どこかに電話をかけるようだ…
「……もしもし、俺。今日…佐和を振った………………あぁ、わかってる。いつかはっきりさせないといけなかったんだ………あいつを頼むわ」
佐和さんは幼馴染みだからか、電話の相手に切実にお願いしている様子に、思わず男の頬に手を伸ばしていた。
そんな辛そうな顔をして欲しくない。
いいえ…あなたにはそんな顔は似合わない。
佐和さんも傷ついた…
だけど、突き離したこの人も傷ついてる。
無意識に、そっと胸に男を引き寄せ抱きしめていた。
「……じゃあな」
電話を切った男は、まるで甘えるように顔を埋めてくる。
沈黙が続く中、抱きしめいるこの男が愛しくて、しばらく彼の背を撫でていた。
しばらくするとスッキリした顔をして顔を上げてきた男。
「……サンキュな」
また、ポンポンと頭を撫で優しく微笑んでいる。
その笑顔にキュンキュンする。
この笑顔は、普段の恐ろしい彼からは想像できなくてギャップ萌えでしかない。