ここにはまるで、店長と私の2人きりしかいないと錯覚をさせてしまう甘く蕩けるキスに、何も考えられなくなっていくから不思議だ。

「りん…好きだ。……お前以外いらない」

甘い声で頬を撫で、見つめる瞳は艶めいて色っぽく、頬にある男の手のひらに頬ずりしたくなる。

その思いを止める佐和さんの叫び声

「許さない……許さないんだから。あんたなんていなくなればいいのよ」

魔女の呪いの言葉のように恐ろしい形相で叫んでいた。

「佐和、お前こそどこかへ行け。そんな気持ちならもう2度と顔を見せるな」

その呪いの言葉を打ち消す悪魔の声と冷たい表情に、佐和さんの表情が凍りつく。

下唇を噛んで悔しい顔をした彼女は、ロッカーの荷物を持って何も言わずに出て行った。

「……いいんですか?」

「佐和が抜けるのは痛手だが、あいつの為にもこれでいいんだ。きっと、奴が側にいるだろう…いつまでも、俺にこだわっているからまわりが見えていない」

そう言えば、さっきも佐和さんを思っている奴の事を考えろとか言っていたような気がする。

その人は店長も知っている人なんだろう…

「……お前には嫌な思いをさせて悪かったな…」