それから日野君は面倒そうに息を吐いて、

「ったく…久々に車使わず登校したらろくなことねーな…」


…ん?車?

通学に、車…?


「だーから止めとけって言ったのにさ~慣れないことはするもんじゃないって!」


飄々と北瀬君が答えるけど、私としては疑問が残る。

通学に車使うって、どういう…


「ね、ねぇ、萌衣…」

首を傾げる私にひっそりと尋ねてきた明希の顔色は心なしか優れない。

「どうしたの?」

「あいつ…あのチャラいヤツが着てる制服ってさ、桜ノ河学院のやつじゃない?」

「桜ノ河学院…って、あの?」


――桜ノ河学院


庶民の私でも知ってる、超エリート学園。
幼稚舎から大学院までのエスカレーター式で、そこに通ってる生徒達は財閥の息子や社長令嬢なんかが大半らしい。
私もパンフレットで一度だけ見たことがある。

お城のように大きくて豪華な校舎。
制服も、高級素材を使ってとあるブランドがデザインした超高い―


ん?

制服??



そう言えばさっき日野君が、たしか――




『 どうしてくれんだオレの制服!! 』


『 制服が汚れたっつってんだよ!! 』



「あ…」

その言葉が脳内でリピートされた瞬間、サァッと血の気が引いていく。



そこで、タイミングよく。


「で、三月萌衣?」


ポン、肩に置かれる手にはどこか振り払えない威圧感があって。

恐る恐る顔を上げると、そこにはニヤリと悪どい笑みを浮かべる閻魔大王。



「このオトシマエ、きーっちりつけてくれんだろうな?」



私は目の前もお先も真っ暗になったのを感じたのだった。