「あ、あのー…」

「コレ。」

ズズイ。控えめな私の問いかけを無視して、目の前に突きつけられたカップ。間違いない、この双葉のマーク…私の、カップラーメンだ。

「コレ。ぶつけてきたのテメーだろ。」

ドスのきいた低い声にただひたすらコクコクと頷く。
すると、降ってきたのは深い溜め息。

「なんか、言うことねーのかよ。」

「……私のラーメン返せ?」

「はぁ!?ふざっけんな!!」

ガシャンッ!!
怒鳴り声とともに地面に叩きつけられそうになったカップを慌てて寸前で受け止める。

「ちょっ、何するんですか!?」

「何するはテメーの方だ!どうしてくれんだオレの制服!!」

「…はぁ?」

「はぁ?、じゃねーよ!!制服が汚れたっつってんだよ!!」

「…それは…ご愁傷様ですね…」

「テメーのせいだろうがラーメンオンナ!!!」

そ、そんなにいちいち怒鳴らなくてもいいじゃない…そりゃ悪かったとは思うけど…

いきりたつ日野、君を宥めながら、北瀬君が、

「いや~今朝はウケたわ~だって遅刻してきたと思ったら、こいつ、全身から汁の臭いさせてんだもん!もー腹よじれるかと思っ…クッ…アハハハハッ!!」

その当時のことを思い出したのか、お腹を抱えて笑い転げる。

全身から、汁の臭い――

「何それ…最高だね!!」

「黙れこの変態女!!!それからハルもしつこいっつーの!!」

そう言って、ちょっとだけ赤くなった顔を誤魔化すように、日野君はいまだ笑い続ける北瀬君を蹴り飛ばした。北瀬君も北瀬君で、綺麗に受け身を取っていたけど。