「…ちょっと、萌衣。もしかして知り合い?」

ヒソヒソと声をひそめて聞いてくる明希に、

「え?し、知らな…」

い。と答えかけて、ハッと口をつぐむ。
よみがえるのは、今朝の、あの――


「あーーーっ!!!もしかして、今朝の!?」

「おう、やっと思い出し…」

「今朝の空耳!?」

「誰が空耳だ!!」

「え?じゃあ、ぬりかべ?」

「…テメーいい度胸だな、カップ麺オンナ。」

私の言葉の何がしゃくに障ったのか、額に青筋を浮かべて近づいてくる男の子。
わけもわからず首を傾げる私。
それを遠巻きに見つめる生徒達。

どことなく険悪になっていく空気を、打ち破ったのは明るくて軽い声だった。


「まーまー落ち着けって、セイ!」

「…ハル。」

顔をしかめた彼の肩を叩いて、金髪の男の子はへらりと笑う。

「いや~ビックリさせてゴメンね!コイツ、いっつもこんなんでさ~もうずっとカリカリしてて」

「…おいっ」

「あ、オレ北瀬春馬!で、コイツが日野清也ね!」

「…はぁ」

「ヨロシク、三月萌衣ちゃん!」

「…はぁ………はぁ!?」


なんで、…なんで名前知ってるの!?

そんな私の疑問が伝わったのか、金髪の男の子、北瀬君はいたずらっぽく笑って片目を瞑る。

「だ~めだよ、現場に証拠残すようなマネしちゃ!」

そう言って、ポケットから取り出されたのは、見覚えのある生徒手帳。
「…まさか、それ…」
「そ!拾ったのはセイだけどね!」
受け取って、中身を確認。
…間違いなく、私のもの。

……ってことは、やっぱり。


顔を上げれば、こっちを睨み付けてくる整った顔。

日野清也。


この人が、私が、朝、あの曲がり角でぶつかった人……