――ズズズッ
「ん~やっぱり朝は味噌味に限るね~」
ひとりで呟きながら人気のない道を走る。
一方で箸を持つ手は止まらない。
もちろん汁一滴こぼすつもりなんかない。最後の一本、最後の一滴を胃に収めるまでが、このカップラーメンを食すという神聖な儀式なのだから。
あ、でもこれは長年カップラーメンを愛してきた私だからこそ成せる技だから、良い子はマネしないでね!絶対だよ!
さぁ、いよいよラストスパート。
麺はあと数本、そして残るは朝日を浴びて輝くスープのみ。
ちなみに学校まではこの最後の角を曲がればあとは一直線。
現在の時刻はギリギリ23分ぐらい。このままいけばギリギリ遅刻せずに済みそうだ。
そう思ってカップ片手に勢いよく角を曲がった時のこと―。
それは一瞬にして、とてつもなく大きな衝撃だった。
飛び散る熱い汁。
立ち上る濃厚な香り。
宙を舞う、縮れた麺―…
気が付いた時にはもう、中身を全て失ったカップがコロコロと地面を転がっていたのだった。その無惨な姿を目にした途端、頭が真っ白に染め上げられる。
「なんて、こと…」
なんでこんなことになってしまったんだろう。角を曲がった瞬間、何かにぶつかったところまでは覚えてるんだけど…
「こんなことになるなんて…」
ふらり、覚束ない足取りのまま変わり果ててしまったカップに近づく。震える手を伸ばしてはみたけれど、もう元に戻ることはなくて。
「ああ…」
どうしようもなく苦しい吐息が漏れる。
最後の一滴を胃に収めるまでが…(以下略)だとたった今思っていたところだったのに…!
そう、今の私のBGMはまさにベートーベンの『運命』―…
♪ジャジャジャジャーーン!!!
「…おい。」
そのBGMに混じって地を這うような声が聞こえたような気がするけど、きっと気のせいだよね…そういえば飛んでいった麺たちは一体どこにいったんだろう。
「おいっ!!」
あれ?ショックのあまり幻聴が聞こえるみたい…?本当なら『運命』しか聞こえないはずなのに…って、ん?こっちが幻聴??
立ち止まったままそんなことを考えていると、不意に、本当の現実を知らせる残酷な音楽が辺りに鳴り響いた。
つまりは、学校のチャイム―…
サァッと顔が青ざめていくのが自分でも分かった。
「やっばい!!学校すっかり忘れてたっ!!」
言うが早いか学校に向かって走り出す。
「あ、おいっ!!待てって!!」
なんか背後で聞こえていた気がしたけど、カップラーメンを失った悲しみに暮れ、遅刻に焦っていた私がその声を気に止めることはなかった。
そう。
このとき、私はまだ気付いてなかったんだ。
背後に、髪に数本の麺を絡ませ、身体中から濃厚な香りを漂わせた青年がいたということに。
彼が、思いっきり私を睨み付けていた―というか怒鳴りつけていたということに。
この瞬間、私の―いや、私たちの運命が急激に回り始めていたということに―…。
「ん~やっぱり朝は味噌味に限るね~」
ひとりで呟きながら人気のない道を走る。
一方で箸を持つ手は止まらない。
もちろん汁一滴こぼすつもりなんかない。最後の一本、最後の一滴を胃に収めるまでが、このカップラーメンを食すという神聖な儀式なのだから。
あ、でもこれは長年カップラーメンを愛してきた私だからこそ成せる技だから、良い子はマネしないでね!絶対だよ!
さぁ、いよいよラストスパート。
麺はあと数本、そして残るは朝日を浴びて輝くスープのみ。
ちなみに学校まではこの最後の角を曲がればあとは一直線。
現在の時刻はギリギリ23分ぐらい。このままいけばギリギリ遅刻せずに済みそうだ。
そう思ってカップ片手に勢いよく角を曲がった時のこと―。
それは一瞬にして、とてつもなく大きな衝撃だった。
飛び散る熱い汁。
立ち上る濃厚な香り。
宙を舞う、縮れた麺―…
気が付いた時にはもう、中身を全て失ったカップがコロコロと地面を転がっていたのだった。その無惨な姿を目にした途端、頭が真っ白に染め上げられる。
「なんて、こと…」
なんでこんなことになってしまったんだろう。角を曲がった瞬間、何かにぶつかったところまでは覚えてるんだけど…
「こんなことになるなんて…」
ふらり、覚束ない足取りのまま変わり果ててしまったカップに近づく。震える手を伸ばしてはみたけれど、もう元に戻ることはなくて。
「ああ…」
どうしようもなく苦しい吐息が漏れる。
最後の一滴を胃に収めるまでが…(以下略)だとたった今思っていたところだったのに…!
そう、今の私のBGMはまさにベートーベンの『運命』―…
♪ジャジャジャジャーーン!!!
「…おい。」
そのBGMに混じって地を這うような声が聞こえたような気がするけど、きっと気のせいだよね…そういえば飛んでいった麺たちは一体どこにいったんだろう。
「おいっ!!」
あれ?ショックのあまり幻聴が聞こえるみたい…?本当なら『運命』しか聞こえないはずなのに…って、ん?こっちが幻聴??
立ち止まったままそんなことを考えていると、不意に、本当の現実を知らせる残酷な音楽が辺りに鳴り響いた。
つまりは、学校のチャイム―…
サァッと顔が青ざめていくのが自分でも分かった。
「やっばい!!学校すっかり忘れてたっ!!」
言うが早いか学校に向かって走り出す。
「あ、おいっ!!待てって!!」
なんか背後で聞こえていた気がしたけど、カップラーメンを失った悲しみに暮れ、遅刻に焦っていた私がその声を気に止めることはなかった。
そう。
このとき、私はまだ気付いてなかったんだ。
背後に、髪に数本の麺を絡ませ、身体中から濃厚な香りを漂わせた青年がいたということに。
彼が、思いっきり私を睨み付けていた―というか怒鳴りつけていたということに。
この瞬間、私の―いや、私たちの運命が急激に回り始めていたということに―…。