ヒラヒラと揺れる黒地のロングワンピース。
軽くフリルがあしらわれた白地のエプロンとお揃いのヘッドドレス。

「うぅ…恥ずかしい…」

「あら、どうして?よくお似合いですよ、萌衣さん。」

ばあやさんはこう言ってくれるけど、恥ずかしくて仕方がない。

だって、まさかメイド服を着せられるはめになるなんて…

そりゃ萌え系のやつじゃないだけまだマシなんだろうけど。
でもそういう問題じゃないんだよね。


「ふふ、坊っちゃんもさぞ驚かれるでしょうね。こんな可愛らしい姿を見られたら。」

「…はは。」

もはや乾いた笑みしか返せないよ…

でもいつまでも恥ずかしがっちゃいられないよね!


「あの、ばあやさん。」
「はい?」
「それで、私は何のお仕事をすればいいんですか?」

しっかり働いて、さっさと日野君とはおさらばしなくちゃ。

それにあんまり遅いとママも心配するだろうし。


すると、ばあやさんはにっこりと笑って、

「簡単な掃除ぐらいで結構ですよ。」

「へ…?」

その答えに思わず聞き返す。

「だって萌衣さんがこのお屋敷にいらっしゃることに意味があるんですから。その代わり、しばらくは通っていただくことになるでしょうけどね。」

「……?」

ますますばあやさんの言っている意味がわからない。

「ばあやさん、それってどういう…」


もう一度、聞き直そうとしたそのときだった。




「へー、馬子にも衣装ってやつ?」





…出た。

出た出た出た出た!!



全力で振り向きたくない。
でも今は雇われてる身。
失礼なこともできないわけで。



「…どうも。」


私に今、できるのは引きつった笑みを浮かべて振り返ることだけだった。

そこには予想通り…いや、予想外?


日野君は私が振り返ると、一瞬、ハッと息を呑んだように固まる。

でもそれはほんとに一瞬のことで、ここからは予想通り。
日野君は、メイド服姿の私を鼻で笑った。



「間違えた。やっぱり馬子はなに着ても馬子のままだな。」



む、ムカつくっ…!!


けれども、反論もできなくて、私はもう一度どうも、と繰り返した。