水の街、ダイヤイアの大道路を歩いている

と、道外れに沢山の人が騒いでいた。


「……ん?どうしたんだろう、なにかあった

のかな?」

「・・・・」


人混みの中をよく見ると、数人その場に倒

れている人がいた。

それに気づいたロンは、すぐさま駆け寄っ

た。

それに続き、タインも駆け寄る。


「…どうした、何があったんだ?」


ロンが声をかけると、街人の一人が青ざめ

た顔で言った。


「………とっ、突然……変なやつに襲われて……

はやく、聖なる水を…………!」

「……聖なる水…?それはどこにあるんだ?

それがあればーーー」

「それは無理だ」


ロンの言葉を無視し、口を開いたのはタイ

ンだった。

タインの言葉に、その場にいた街人達は固

まってしまった。

そんな街人を無視し、タインが言葉を続け

る。


「コイツは水の能力者じゃない」


タインの言葉を聞き、街人は先ほどよりも

青ざめた顔になってしまった。


「タイン、それはなにがなんでも言い過ぎ

だ。水の能力者じゃなくても、何かしらの

ことはできるはずだろう」

「無理だ。この街の人はーーー」


タインが続きを言おうとした、その時。


ガシッ!


いきなり街人の一人が、タインの肩を勢い

よく掴んだ。


「…っ!な、何をするのだ!」

「………嘘を………付くな…!」


先ほどの青ざめた顔から、憎しみに変わっ

た街人の様子に、タインは背中に汗が流れ

たのを感じた。

それに続き、他の街人もタインにゆっくり

と近づく。


「タイン!おい、少しおちつけ……」


ガツン!


なにかがロンの頭に打ち付けられた。

それに気づいたのは倒れたときだった。


(………っ、くそっ……いつの間に…!)


ロンがタイン達に夢中になっている間に街

人の一人が背後に忍び寄っていたのだ。


「………ッ…タイン!」


ロンはできる限りの声を出した。

だが、その声は小さく、タインには聞こえ

なかった。


「やめろッ、私からはなれろ!」

「………はやく、聖なる水を………水をくれ……

はやく……!」


タインの声は、怯えと怒りが入り混じって

いた。

街人達は、我慢の限界に達し、タインに襲

いかかった。


「……ッ!たすッ、助けて!!」


タインは思わず叫んでしまった。

街人達の手が目の前に伸びてくる。

10歳のタインからすれば、恐ろしいの言葉

しかない。

叫ぶタインの声を聞いたロンは、悔しくて

仕方がなかった。

痛む頭を無視し、おぼつく足で難とか立ち

上がったロンは、タインの元へと歩き出し

た。


その時。


「そんなに聖なる水が欲しいのか?」


よく透き通る声が聞こえた。

その声と共に、街人達の動きは止まり、そ

の隙に、タインはロンの元へと走り出し

た。


「……!!ロン!その傷、どうしたのだ」


タインはロンの姿を見て泣きそうな顔にな

りながら口を開く。


「……あっ、あぁ、大丈夫だ」


ロンは心配をかけまいと、優しく微笑ん

だ。

そして、言葉を続ける。


「……それより、今の声は………?」

「水の能力者なのだ」


タインが口を開いた瞬間、再び声がした。


「そんなに水が欲しいなら大人しくしろ」


そのとたん、ボール小位の水玉が街人達の

頭上に浮かんできた。

それを見た、街人達は、皆笑顔になり、水

玉に手を伸ばしていた。

その様子を見て、ロンは背筋が冷たくなる

のを感じた。


スゥーーーーーー


ピチャンー


街人達の頭上の水玉が弾けると、小雨のよ

うに、音もなく降った。

街人達は、何事もなかったかのようにその

場からはなれて行った。


「………タイン、タインはこの事を知ってい

たのか……?」

「・・・・」


タインは、なにも答えなかった。




「あの、大丈夫ですか?ケガをされたよう

ですが……」


二人の沈黙を破ったのは、一人の少年だっ

た。


「……は、はい、大丈夫です。さっきの小雨

でだいぶ楽になりました」


ロンの傷は、さっきの小雨のおかげで治っ

ていた。

ロンの傷が気になっていたのか、タインは

心配そうに見ていた。


「大丈夫だよ、タイン」


その声で、タインは安心したのか、小さく

微笑んだ。


「君たちはこの街の人じゃないですね。旅

人ですか?」


少年が、不思議そうに口を開く。

ロン達は、頷き、言った。


「あぁ、旅人みたいなもんだ。ところで、

きみは……?」

「あぁ、申し遅れました、僕はレイク・ロ

イと申します」


ロイという少年は、外見からは想像出来な

いほどの礼儀の良さだった。

タインは相変わらず黙ってロイとなのる少

年のことを見ていた。


「誰か探しているんですか?」

「……あぁ、そうだ」


ロイは、ロンの目を見ながら口を開いた。

ロンは、不思議に思いながら答えた。

すると、ロイは微笑みながら言った。


「よかったら、僕も一緒に探しましょう

か?」


その言葉にロンは、嬉しそうに目を輝かせ

た。


「いいのか、それは助かるよ!」

「………おまえ、なにかーーー」

「じゃあ僕、支度して来るから、そこで待

ってて下さい!」


タインの言葉を遮るようにロイは言うと、

その場から走り去ってしまった。

その様子を見たロンは、不思議そうにロイ

の後ろ姿を見ていた。

そのあと、タインに視線を移す。


「……どうしたんだ、そんなにロイのこと睨

んで。なにかあったのか?」


相変わらずロイのことを睨み付けているタ

インに声をかける。

すると、タインは不満そうに口を開いた。


「……あいつ、なにか隠したいるのだ」



ロンは、思わずため息をしてしまった。

その時、ふと、先ほどの街人達が頭に浮か

び、タインの言おうとしたことが気になっ

てしまった。


(…聞いたら、答えてくれるかな……?)


少し不安に思ったが、どうしても気になる

ので、聞いてみることにした。


「…さっき、黙ったのって、なにか理由があ

るのか?」


タインはロンの顔をじっと見つめ、意を決

したように、話し始めた。


「…この街は水を資源にしているのは知って

いるよな、この街にとって、水は宝。水に

も様々な種類があるのだ」


そこで一息ため、再び語る。


「その中でも一番力が強いのが、生き物の

傷を癒すと言われる【聖なる水】だ。これ

はたった一滴だけでも沢山の人を助けられ

ると言われている」


ロンは目をぱちくりさせて聞いていた。

ロンにはそうすることしかできなかった。

そんな中タインの話しが続く。


「その、聖なる水を狙う奴や奪おうとする

者が最近になって多くなってきたのだ。さ

っきの奴らも頭がおかしかった。瞳の色も

曇ってなにも映していなかった」


ロンはゾッとしながらタインの話しを聞い

ていた。



「つまり、この国は聖なる水によって、支

配されている、と言うことだ」

「…そんなすごい力なのか、聖なる水は」


ロンは、動揺しながら答える。


「しかし、なんでロイを睨んでいたんだ?

その話しとは関係ないと思うんだけど…」


それを聞いたタインは、真剣な顔で言っ

た。


「それはーーーー」

「お待たせしました~」


タインが口を開いたのと、ロイが準備し終

えこちらに駆けてきたのは、どうじだっ

た。

ロイは、目をぱちくりさせ、不思議そうに

口を開いた。



「...あの、どうかしましたか?」

「ううん、なんでもない...」


ロンは、無理矢理に笑い、言った。

それを不思議そうに見ながらロイは探しに

行くよう、促すように口を開いた。


「僕、水の能力者について少し詳しいので

少しは役に立つと思って、さ、行きましょ

うか」