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「夕霧、何を読んでるんだ?」
塾に向かう道すがら本を読んでいると、後ろから声をかけられた。
聞き覚えのある声に振り向くと、そこにいたのはやっぱり晋作。
「おはよう晋作。これね、先生から借りた本だよ」
そう言って本を見せると、晋作は目を丸くした。
「夕霧は勉強熱心だな。毎日本を借りて、次の日には別の本を持っている」
塾生で一番最初に出会ったこの高杉晋作(たかすぎしんさく)。
家は上士の家系で名門の出。
祖父と父に松下村塾に通う事を反対されている為、こっそりと塾に通っている。
夜中、家族が寝静まってから塾に来ることもあるそうだ。
「勉強なされられい、だからね」
そう言って笑うと、晋作もははっと笑ってくれた。
『勉強なされられい』
松陰先生の口ぐせ。
私も入ってすぐに言われた。
噂に聞いていた通り、松下村塾では身分も関係ない。
必要なのは学びたいという想い。
女の私でも、みんな快く迎え入れてくれた。
