夢想曲ートロイメライー


**

「夕霧、何を読んでるんだ?」

塾に向かう道すがら本を読んでいると、後ろから声をかけられた。

聞き覚えのある声に振り向くと、そこにいたのはやっぱり晋作。

「おはよう晋作。これね、先生から借りた本だよ」

そう言って本を見せると、晋作は目を丸くした。

「夕霧は勉強熱心だな。毎日本を借りて、次の日には別の本を持っている」

塾生で一番最初に出会ったこの高杉晋作(たかすぎしんさく)。

家は上士の家系で名門の出。

祖父と父に松下村塾に通う事を反対されている為、こっそりと塾に通っている。

夜中、家族が寝静まってから塾に来ることもあるそうだ。

「勉強なされられい、だからね」

そう言って笑うと、晋作もははっと笑ってくれた。

『勉強なされられい』

松陰先生の口ぐせ。

私も入ってすぐに言われた。

噂に聞いていた通り、松下村塾では身分も関係ない。

必要なのは学びたいという想い。

女の私でも、みんな快く迎え入れてくれた。