松陰先生は優しい笑みを浮かべてこちらに歩いてくる。
そうして私の前に立って、口を開いた。
「一つ教えていただけますか。あなたは何故学びたいのですか?学んで何をしたいのですか?」
「え……?」
思いがけない質問に、私は戸惑ってしまう。
学びたい理由。
そうして成し遂げたいこと。
自分はどうして松下村塾に入りたいのか。
……私はただ、ここでなら何かを学ぶことができると思っていたから。
何を学んで、何を為すかなんて考えたこともなかった。
「答えられませんか?」
松陰先生の言葉に私は俯く。
「……すみません」
松陰先生は首を横に数回振った。
「ここでは、皆が皆先生です。僕は皆さんに教えることはできませんが、皆さんと一緒に学ことができます。僕もまだ学ぶことがたくさんある。あなたが、明日から皆に何を教えてくれるか楽しみにしていますよ」
……志を立てることが全ての源となります。さっきの質問の答えは、いつか答えが出たらぜひ教えて下さい。
そう言って私の肩に手を置いて、先生は塾生達を振り返った。
「さあ皆さん、今日から新しくあなた方の先生になる和泉夕霧君です」
塾生達の視線がまた私に集まる。
もう一度深く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
これが、松陰先生との出会いだった。
これが、皆との出会いだった。
