夢想曲ートロイメライー


「せっかく川へ来たのに、何で泳がんないんだ。泳げるようにならないぞ」

「私はもう華麗に泳げるわよ!!」

そう言い返すと、川から上がって着物の裾を絞る。

着替えなんてもちろん持って来ていない。

こんなびしょ濡れの状態ではとても帰れない。

晋作達はどうやって帰るつもりなんだろう。

後方で皆のはしゃぐ声がより一層大きくなって振り返ると、川にも入らず皆から離れている青年が写った。

誰かと思ってよく見ると、それは利輔だった。

――伊藤利輔。

垂れ目が特徴の優男で私より一つ年下。

昼間は仕事をしていて、塾には夜通っている。

今日は珍しく昼間から来ているけど。

「利輔、何で皆と一緒に泳がないのよ。泳げないの?」

近づいて声をかけると利輔は首を横に振った。