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照り付ける太陽。
力一杯鳴く蝉の声。
「よいしょ!」
鍬を勢いよく振り上げる。
だけど、予想外の重さによろめいてしまう。
鍬を振り上げた状態のまま後ろに倒れ込む。
「あ、夕霧さん!」
地面に倒れる前に誰かの腕に支えられた。
首だけ回して後ろを見ると、そこにいたのは丸顔の少年。
「僕がやります」
ぶっきらぼうに言って鍬を奪って、畑を耕し始める少年。
「ふふっ、ありがとう市」
――山田市之丞。
私より三つ年下で松下村塾では最年少の塾生。
市の家も晋作と同じ上士の家で父は藩の海軍頭。
その影響か、市も兵学が得意だった。
背が小さくて、童顔な市は皆から弟の様に可愛がられていた。
