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「至誠にして動かざる者は未だ之れあらざるなり。誠ならずして未だ能く動かす者はあらざるなり――」
「こんなところにいたの」
どこか弾んだような調子の声に顔を上げる。
石段を登ってくる二人の男が目に入って、笑みが零れた。
「栄太、九一」
吉田栄太郎と入江九一。
二人もまた村塾の塾生。
栄太郎は塾の近くに住んでいて、もともとは松陰先生の叔父の主催する塾に通っていた。
松陰先生が松下村塾を引き継いだ後、早い時期に入塾した。
九一はまだ正式に入塾していないけれど、毎日のように塾に通っていた。
昼間は先生の講義を皆と聞いて、夜は数人で集まって会読をしている。
弟もいて、兄弟揃って塾に通ってきている。
「こんな時間なんだから外じゃなくて、家で勉強すればいいのに」
九一に言われて気が付くと、空はもう茜色に染まっていた。
…文字が見えづらいと思ったら、暗くなってきたんだ。
「今日は天気が良くて気持ち良かったし、それに家にいると集中できないから」
苦笑してみせると、二人も声を上げて笑った。
