夢想曲ートロイメライー


私は、唖然と久坂さんを見つめる。

……その手ぬぐい使っていいのかな。

いや、そもそも何故ここに?

驚きで言葉も出せずに固まっていると、

「早くしろ!手遅れになるだろう!」

久坂さんに怒鳴られた。

その言葉で我に返る。

そうだった、早く止血だけでもしなくてはいけないのに。

手ぬぐいを受け取ってその子の腕に巻きつけていると、久坂さんも他の子の手当を始めた。

考えてみれば彼は医者なんだ。

このくらいできて当然か。

「おい、そこの人、どこかこの近くに医者はいないか?」

久坂さんが手を動かしながら近くにいた男の人に尋ねる。

でも隣の人と顔を見合わせるばかりで、やっぱり答えてくれない。

「医者はどこかと聞いているんだ!!」

激しい声に思わず私までびくりとしてしまう。

身体の大きな久坂さんが怒鳴ると、仁王様に怒鳴られている気分だ。

怒鳴られた本人も顔を青くした。

「こ、この先の長屋に……」

「ならば早く子供達を運べ!!」

また一喝。

二度も怒鳴られた男の人は、慌てて処置の終わった子供を抱き上げて走って行く。

……絶対に久坂さんは怒らせたくない。

そんなことを考えながら私動も手をかす。